【掲載記事】中国との分業で現状打開目指す

『ジェトロセンサー』(2005年11月号)に、「挑戦!国際ビジネス No.109」と題し、当社が掲載されました。その記事を以下のとおりご紹介します。

日本の木材業界は和風住宅需要低下や安価な外国産木材の流入などにより打撃を受け、業態の転換を迫られている。江戸時代から秋田スギの集散地として栄え、木材加工関連企業が集積している木都・秋田県能代市。その能代市に立地する丸石銘木は、この危機を打開すペく中国進出に踏み切り、国際分業体制を構築した。

中国、青島に設立した100%出資現地法人「青島丸石木材有限公司」

長期的な視野から進出を決断

丸石銘木は1979年に操業以来、和室向け天井板などの内装材を主に製造しており、不燃材などの合板加工を得意としてきた。新築住宅の和室需要の低下から、国内市場が縮小するとともに、売り上げの減少が続いていた。経営の指揮を執る深井範保専務取締役は、「20~30年の長期で自社の将来や成長性を考えた結果、中国進出を決断した」と言う。

中国進出の目的は、(1)国内市場縮小に伴う販路の海外への移転、(2)同社社員が定年退職のピークを迎えることへの対応、(3)生産コストの縮減などである。 2000年ごろから資材の海外調達を始め、海外ビジネスへの視野が広がったこともあり、選択肢の一つとして検討してきた結果だ。

約1年で現地法人を設立

中国進出を検討し始めたのは2003年のことだった。翌2004年3月、中国・青島の経済技術開発区に100%出資子会社の独資法人「青島丸石木材有限公司」を設立。検討を始めて約1年で現地法人設立を成し遂げた。スピーディーな対応を可能にした背景として深井専務は、中国当局関係者とのアクセスを可能とした人脈があり、彼らと密接な信頼関係を築き上げたことを挙げる。

人脈形成は、深井専務の友人のつてで青島開発区の幹部と知り合ったことがきっかけだった。 幹部の紹介を受け、自社の資料を開発区に提供し、ありのままの姿を伝え、開発区との信頼関係を築いた。以降、計画から実際の進出まで円滑に事が進んだという。

進出用地の紹介や人材雇用の手配、設立手続き面でのサポートやアドバイスなど、会社設立に関するあらゆる支援を開発区から受け、100%単独出資(独資)法人での企業設立を勧められた。青島での独資法人設立を決めたのは、開発区からの手厚い支援に加え、(1)北京や上海などの大都市と比べ物価が比較的落ち着いている、(2)梅雨がなく湿気が少ない気候でリゾート地として位置付けられ、別荘の建設も進んでいるため、別荘向けの内装材として供給できる可能性がある、などの要因も重視したためである。

開発区から全面的な支援が受けられたのは、人脈をもとに信頼関係を築いただけでなく、同社が開発区では今までにない業態であること、不燃材加工の独自技術を保有していたことなどのためだ。「小さなメーカーでもノウハウがあるという点が開発区に評価された」と深井専務は分析する。

現地法人工場内での作業の様子

日中分業と海外販路拡大を狙う

2004年3月に現法を設立してから工場設立までの1年間で、現地での資材の調達、電力や設備などのインフラのチェックを行うと同時に、現地で雇用した従業員を能代の本社工場に研修生として受け入れて技術移転を行うなど、工場稼働に備え地道で周到な準備を行った。

2005年3月、平屋建て約2,500平方メートル、従業員25人の現地工場を設立し、能代と青島の日中分業体制のスタートを切った。現在はマレーシアからベニヤ板を、日本から接着剤、秋田スギ材などを中国へ輸出、現地でナラ、タモの広葉樹材を調達し、不燃合板の半製品を製造、日本へ輸出して最終加工を行っている。今年3月から試験操業を開始し、7 月から本格的な生産体制に移行している。

独資法人の董事長兼総経理(会長兼社長)には深井専務が就任したが、普段は日本の大学に留学経験のある中国人副経理(副社長)が指揮を執る。日本からは検品スタッフを1人派遣し、現地で採用した工場長とともに、日本へ出荷する前に検品を行う体制を整えた。今後は深井専務も定期的に中国に出向き、経営や生産体制のチェックを行う。 将来的には、中国では規格品の生産、日本ではオーダーメード品の生産や不燃材の開発といった分業体制に徐々に移していく考えである。

現在も中国から研修生を受け入れ、加工技術や品質管理の教育を行っており、現地作業スタッフの研修には熱心に取り組む。これらの研修スタッフは技術を修得し上達するにつれ、賃金など待遇面での要求が高まるという。これに対し、同社は寮を整備し食堂を設けたほか、「修得した内容ではなく、結果で評価を行う」と、作業員との間でコンセンサスを取るなど、人材マネジメント面でも十分気を配っている。

現在は現地法人への委託加工形式をとり、全量を日本へ輸出しているが、海外販路を拡大するために、現地販売や第三国への輸出も検討している。ただ、中国での現地販売が実現するにはさらに年月を要すると深井専務は考えている。建設ラッシュが続く中国でのマンションや別荘向けの内装材として、現地 日系商社と販路・流通網の整備を模索しているが、和風建築が受け入れられるか、今後時間をかけてじっくりと市場を研究する必要がありそうだ。

「身の丈経営」をモットーに前進

「10年前と比べ現在の年間売上高は約半分だが、今はこれが自社の最適規模と感じている。海外進出をしても背伸びをせずに身の丈経営を続けるだけ」と深井専務は自社の針路を冷静に描く。

苦境に立たされている木材加工企業は多いが、深井専務は「後ろ向きでなく常に前向きに考えていればビジネスチャンスが生まれる」「大企業だけでなく小さい企業でもやる気とチャンス、独自のノウハウ・製品があれば、海外でもやっていける」と中小企業にエールを送る。

同社の経営姿勢は、「身の丈経営」を心掛けつつも、「常に前向きの姿勢」をとる、というもの。中国事業が軌道に乗れば、現地工場の拡張も考えており、海外ビジネスに対する意欲は高まるばかりだ。

(浅元 薫哉/ジェトロ秋田)

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